前立腺癌における永久挿入密封小線源療法
はじめに
前立腺癌の治療法としては現在、待機療法、ホルモン療法、手術、放射線治療があります。放射線治療には大きく分けて外から放射線を照射する外照射療法と放射線源を埋め込み内部から治療を行う密封小線源療法があります。
密封小線源療法は、米国において手術と同程度の標準的な治療法として以前より施行されていますが、日本では放射性物質の取り扱いに関する法律などにより施行が遅れていました。しかし、現在では医療法、放射線障害防止法などの法的な制約が緩和され、日本においても施行可能な治療法となりました。
放射線の照射方法
密封小線源療法は前立腺の内部へ放射性物質(小線源)を挿入して、それが放出する放射線により正確かつ的確に前立腺への照射を行う方法です。会陰部(陰嚢と肛門の間)から、X線と超音波映像を見ながら約50~100個の小線源の挿入を行ないます。従来の外照射療法にくらべ前立腺の内側から放射線をかけるため、本治療は前立腺とその周囲への限局した照射が可能となり、前立腺へ照射する線量を多くしても直腸や膀胱などの周囲臓器への線量を低く保つことができ、侵襲の少ない治療法です。
一方、より限局的な治療とはいえ放射線治療のひとつであることには変わりなく、放射線照射に伴い尿路、消化器、性機能などに障害が出る可能性があります。また、放射性物質を永久挿入することに伴う法律上の一定の制限があります。
小線源とは
密封小線源療法の適応
密封小線源療法の適応は、前立腺内に限局した癌です。前立腺周囲への照射量は少ないため、癌が前立腺の周囲までおよんでいた場合(被膜外浸潤)、その部位への照射量は少なくなり、十分な治療効果が得られなくなります。そのため、被膜外・精嚢・膀胱への浸潤や癌のリンパ節や骨への転移が、CT・MRIの画像検査で明らかに前立腺周囲に広がっている場合には適応となりません。さらに前立腺が大きい場合には挿入する線源の数が法律で規定されている以上必要となるため、すぐには密封小線源療法とはなりません。個人差はありますが前立腺の大きさが約35cc以上の場合には治療前に3~6ヶ月程度内分泌療法を行い体積の縮小を図ります。縮小しない場合には治療が困難となります。症例によっては小線源療法単独ではなく外照射療法やホルモン療法を併用する場合もあります。
前立腺摘除術後に再発した場合や、放射線治療後の再発例ではこの治療は施行できません。また、ホルモン療法中にPSA値が上昇してきたようなホルモン療法抵抗例ではこの治療は無効です。さらに過去に前立腺肥大症の手術を施行している場合、密封小線源療法に必要な体位が取れない場合、他疾患で骨盤部へ放射線治療の既往がある場合、恥骨が邪魔をして小線源の挿入が困難な場合などは施行できません。
当外来では適応をきちんと判定し、治療の流れをお話します。
密封小線源療法の流れ
合併症
最後に
体に埋め込んだI-125シード線源は放射線を出しますが、ほとんどは前立腺に吸収されてしまいます。尿、便、汗、唾液などの分泌物には放射能は一切ありません。周囲の方へ与える放射線量は、人が自然に受けている放射線量よりも低いことがわかっています。しかし一定の期間は周囲の方への配慮は必要です。治療後約2ヶ月が過ぎれば線源の放射能は半減しており、約1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。
密封小線源療法は手術に比べ、入院期間が短く、侵襲や副作用も少ないにも関わらず、病気の状態によっては手術とほぼ同等の治療効果が期待できる治療法です。しかし、あくまでも早期前立腺癌に対する選択肢のひとつであり、全ての患者さんに効果があるわけではありません。個々の患者さんに対する本治療法の適否は当院外来にてご説明します。