研究テーマ

腎細胞癌研究

腎臓癌は現在、分子標的治療の開始に伴い、最も注目をあびている癌の一つです。その根拠となる分子・細胞生物学的特徴は当教室が世界に向けて情報を発信してきました。

今までの研究成果

臨床での特徴を惹起するメカニズムは何か、そのメカニズムが治療の標的になるかどうかの解析を行ってきました。腎臓癌には、ユニークな特徴として、発熱等の腫瘍随伴症状を伴う頻度が高いこと、血管増生が顕著な癌であること、があげられます。この二つの特徴はこの癌においてサイトカインや増殖因子の重要性を示唆します。泌尿器癌の中では、たとえば浸潤性膀胱癌が、強い増殖性、浸潤性、転移能が備わった典型的な悪性腫瘍であるのに対し、腎臓癌は増殖性と浸潤性は強くなく、サイトカインと増殖因子が繋ぐ癌細胞同士あるいは血管内皮細胞等との協力が、発癌や癌の進展に重要であると独自の考えを持つに至りました。 サイトカインや増殖因子の誘導には転写因子である、NF-κB、STAT3、C/EBP、c-Jun, AP-2, Hypoxia inducible factor (HIF)等の活性化が存在するはずであり、腎癌の治療の標的になりうると考えました。この独自の理論に基づき、腎癌においてNF-κBの活性化は腫瘍の進展や転移と関連すること(Oya M et al: Carcinogenesis 2003)、(Oya M et al: Oncogene2001)、IL-6による腎細胞癌のオートクライン的増殖がSTAT3を介していること、 (Horiguchi A et al: Kidney Int 2002)。腎細胞癌の組織においてはCCAAT/enhancer binding protein (C/EBP) の活性化は腎細胞癌においては β サブタイプに依存していること(Oya M et al: Clin Cancer Res 2003)を示しました。これら2つの転写因子の活性化は癌の悪性度や浸潤と相関するのに対し、Activator protein 2 (AP-2)とc-Junは逆に早期の腎細胞癌に有意に活性化が見られることを示しました(Oya M et al: Urology 2004; J Urol 2005)。また、サイトカインのシグナル伝達経路を解析する一環として、PI3K-Akt-mTOR経路の解析を行い、免疫組織化学的手法にてAktの活性化が腎細胞癌の予後不良因子であることを示し(Horiguchi A et al: J Urol 2003)、活性化のメカニズムはPTENの発現の減少であることも示しました(Hara S et al: Ann Oncol 2005)。これら一連の成果は腎細胞癌の細胞生物学的あるいは病理学的特徴を再考する契機を与えたものと国際的に評価され、2つの総説も書いています(Oya M and Murai M: Curr Opin Urol 2003; Murai M and Oya M: Curr Opin Urol 2004)。

血管増生のメカニズムとしてvascular endothelial growth factor (VEGF) が最も重要です。Hypoxia inducible factor (HIF) は低酸素状態で活性化され、vascular endothelial growth factor (VEGF) の産生を誘導します。我々は腎癌細胞株においてVEGFの誘導は他の転写因子の余剰性を持つことなく、HIF-αのサブタイプであるHIF-1αあるいはHIF-2αに依存することを証明しました(Shinojima, T. et al: Carcinogenesis 2007)。

これら一連の成果は腎癌がサイトカイン産生性腫瘍であるという臨床的特性に対する分子基盤を与える研究と位置づけられます。それだけでなく、結果的に腎癌に対する分子標的治療に対する分子基盤を与えました。腎細胞癌に対して、sorafenibとsunitinibがVEGFのシグナル伝達経路を阻害する血管新生阻害薬として使用されるようになり、mTOR 阻害薬は申請が完了した段階です。我々のデータは固形腫瘍であるのにもかかわらず、分子標的薬が適応となる理由として腎癌がサイトカイン産生腫瘍であるという細胞生物学的特徴を世界に先駆けて示したことが高く評価されています。

当教室では、上記の研究に加えて腎細胞癌の転移・浸潤に関する研究にも積極的に取り組んでいます。我々は、腎細胞癌においてRANKL/RANK/OPGが癌細胞の移動能を制御することで骨のみでなく他臓器への転移にかかわっていることを報告しました(Mikami, S. et al: J Pathol. 2009)。また、基底膜の主要な構成要素であるヘパラン硫酸を分解する酵素であるヘパラナーゼの活性が、腎細胞癌の浸潤・転移に重要な役割を果たしていることも報告しています(Mikami, S. et al: Clin Cancer Res. 2008)。エピジェネティックスのヒストン修飾にも着目し、腎細胞癌においてヒストンH3が脱アセチル化されていることと、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤によるヒストンのアセチル化が腎癌治療の分子標的となり得る可能性についても報告しました(Kanao, K. et al: J Urol. 2008)。

腎細胞癌に関する現在進行中のテーマは下記の通りです。

  1. 異物代謝に関わる転写因子Aryl hydrocarbon receptor (AhR) の意義
  2. 透析腎における微小病変(前癌病変)の起源と癌との連続性
  3. 腎癌におけるエピジェネティックな変化:ヒストンアセチル化、DNAメチルトランスフェラーゼを中心に
  4. 分子標的薬と免疫環境
  5. 臓器特異的転移機構:骨転移とRANKL, リンパ節転移とケモカインレセプター
  6. 新規PI3K阻害薬(LK6A)の抗腫瘍効果
  7. ストレスキナーゼの活性化とアポトーシスの誘導

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