業績紹介

論文紹介

慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.20

Long-term androgen ablation and treatment with Docetaxel up-regulate phosphorylated Akt in Castration Resistant Prostate Cancer
Takeo Kosaka, Akira Miyajima, Suguru Shirotake, Eriko Suzuki, Eiji Kikuchi, and Mototsugu Oya Jounal of Urology 2011, Epub ahead of print

背景・目的

現在、ドセタキセル(Docetaxel: Doc)療法は去勢抵抗性前立腺癌(Castration Resistant Prostate Cancer: CRPC)患者さんのlast resortとなっているが、前立腺癌(PCa)では、その進展に伴って、どのように抗がん治療に対する耐性を獲得していくのであろうか?また、癌抑制遺伝子PTENの欠失は、前立腺癌の発癌の主要な要因の一つであるが、その際に活性化されるAktのリン酸化状態はどう変化していくのか?本研究は、特にCRPCの進展プロセスに着目したAktの発現とドセタキセル療法耐性機構の解明を目的としている。

方法

2種類の前立腺癌細胞株(C4-2, C4-2AT6)を対象とし、Docの感受性を比較検討した。C4-2AT6は当教室において、C4-2をアンドロゲン除去血清下に6か月間培養することで樹立したCRPC細胞株である。この2つの細胞株はPTENの欠失したヒトCRPC細胞株である(Kosaka T. et al. Prostate, 2010)。Docの感受性比較試験は、in vitroにおいてはWST assayにて、in vivoではヌードマウス皮下腫瘍モデルを作成し、皮下腫瘍が200 mm3に到達してからDocの投与(4-8mg/kg)を開始した。Akt、リン酸化Akt (Ser473)の発現をウェスタンブロット法と、免疫組織化学を用いて検討した。

結果

In vitro におけるDocの感受性比較試験では、C4-2AT6はC4-2に比較して有意にその感受性が低下していた。In vivoでのDocの感受性比較試験では、C4-2ではDocの投与により濃度依存性に腫瘍が顕著に縮小したが、C4-2AT6ではDoc投与による腫瘍の縮小はほんの僅かであった。以上からC4-2AT6はDocに耐性を獲得した細胞株であることが明らかになった。リン酸化Akt(Ser473)の発現はC4-2AT6において、in vitroin vivoいずれにおいて、有意に発現が亢進していたが、Docの投与はin vitro、in vivoいずれにおいても更にリン酸化Aktの発現を誘導した。この発現亢進が、Docの耐性に寄与するのかをLY294002(PI3K阻害剤)を併用して検討したところ、Aktの阻害はDocに対するアポトーシスの誘導を増強した。

結論

CRPCにおいてはPTEN欠失下でも、リン酸化Aktの発現はアンドロゲン除去の環境や、ドセタキセルの投与により、さらにそのリン酸化が誘導されること、Doc投与に伴う、Aktの更なる活性化はDoc耐性機構の一端であることが明らかとなった。

文責 小坂 威雄

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.19

Preoperative Hydronephrosis Grade Independently Predicts Worse Pathological Outcomes in Patients Undergoing Nephroureterectomy for Upper Tract Urothelial Carcinoma. Yujiro Ito, Eiji Kikuchi, Nobuyuki Tanaka, Akira Miyajima, Shuji Mikami, Masahiro Jinzaki and Mototsugu Oya
J Urol. 2011 Mar 16. [Epub ahead of print]

背景及び目的

筋層非浸潤性膀胱腫瘍において術前の水腎症はpoor outcomeを予測しうると報告されているが、腎盂尿管癌における術前の水腎症の有無によるoutcomeの検討の報告は乏しい。今回我々は、上部尿路上皮腫瘍症例において術前の水腎症の程度が生命予後に影響を与えるかを検討した。また術前の水腎症の程度が手術検体で得られた病理組織学的所見を予測しうるかを解析した。

方法

2000年から2009年の間に当院で腎尿管全摘・膀胱部分切除術を施行し、術前multidetector CT (MDCT)を行った91例を対象とした。2名の泌尿器放射線科医により片側の水腎症の程度を5段階(0:水腎症を認めない、1: 腎盂のみの拡張、2: 軽度の腎杯拡張、3: 重度の腎杯拡張、4:腎杯の拡張と腎実質の菲薄化を伴う水腎症)に分類し評価した。水腎症の程度と病理組織学的所見、予後との関連を検討した。

結果

67例(73.6%) に術前水腎症を認めた。水腎症の程度は、グレード1が3 例(3.3%)、グレード2が17例 (18.7%)、グレード3が23例 (25.3%)、グレード4が24例 (26.4%) であった。水腎症の程度は病理病期 (p=0.0002)、壁内脈管浸潤の有無 (p=0.0014)と強く関連した。また腎盂腫瘍より尿管腫瘍により多く水腎症を認めた (p=0.0307)。水腎症の程度は癌特異的生存と関連を認めなかった。一方、患者年齢、性差、腫瘍の局在、臨床病期、尿細胞診、画像で測定した腫瘍長などの術前の臨床学的因子とともにlogistic解析を行うと、術前の水腎症の程度はT3以上の病理病期症例(HR 4.98 p=0.0228)、壁内脈管浸潤陽性症例 (HR 6.37 p=0.0022)、あるいはG3の腫瘍 (HR 2.98 p=0.0311)を独立して予測した。

結論

術前MDCTで検討した水腎症の程度は、手術検体で得られた病理組織学的所見を予測した。術前にMDCTで水腎症の程度を正確に評価することは、上部尿路上皮腫瘍における術前補助化学療法あるいはリンパ節郭清の必要性などの治療指針を計画する際の一助になると考えられた。

文責 伊藤 祐二郎

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.18

Phosphorylated Akt up-regulates angiotensin II Type-1 Receptor Expression in Castration Resistant Prostate Cancer
Takeo Kosaka, Akira Miyajima, Suguru Shirotake, Eiji Kikuchi, and Mototsugu Oya The Prostate 2011, Epub ahead of print

背景

レニンーアンギオテンシン系(RAS)が悪性腫瘍の血管新生の制御に関与するという知見が集積されつつあり、当教室においては、泌尿器科癌において、アンギオテンシン1型受容体(AT1R)阻害剤 (AT1R blocker:ARB) の血管新生抑制作用を介した抗腫瘍効果を報告してきた。(Miyajima A et al. Cancer Res, 2002, Kosugi M et al. Clin Cancer Res, 2006, Kosaka T et al. Prostate, 2007)。我々は、前立腺がん(PCa)において、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)では、AT1Rの発現が、ホルモン感受性前立腺癌に比して有意に亢進していること、ならびにARBの投与による、抗血管新生作用を介したCRPCにおける抗腫瘍効果について報告してきた (Kosaka T. Miyajima A. Prostate 2007)。さらにAT1RのAng II刺激により誘導される転写因子として、HIF-1α・Ets-1の発現誘導を報告した(Kosaka T. et al. Prostate, 2010)。しかしながら、CRPCを含め、癌細胞において、AT1Rの発現が亢進する分子メカニズムに関する検討は未だなされていない。本研究は、CRPCにおける、AT1Rの発現調節に関与するシグナル伝達経路の検討を目的とする。

方法

2種類の前立腺癌細胞株(C4-2, C4-2AT6)を対象とした。C4-2AT6は当教室において、C4-2をアンドロゲン除去血清下に6か月間培養することで樹立したCRPC細胞株である。この2つの細胞株は、PSAを産生し、アンドロゲン受容体発現陽性、PTEN欠失したヒトCRPC細胞株である(Kosaka T. et al. Prostate, 2010)。シグナル伝達経路として、Aktの発現をウェスタンブロット法と免疫組織化学を用いて検討した。PI3K阻害剤としてLY294002を使用した。

結果

C4-2、C4-2AT6の比較において、Aktの発現はin vitro、in vivoにおいて有意な発現の差は認められなかった。リン酸化Akt(pAkt)の発現はC4-2AT6において、in vitro、in vivoいずれにおいて、有意に発現が亢進していた。PTENが欠失した際に、pAktの発現が上昇されることは予測されるが、この結果は、PTEN欠失のCRPCは、アンドロゲン除去の環境下で、さらにAktのリン酸化が誘導されていることを意味する。LY294002の投与により、C4-2AT6はC4-2に比して、細胞増殖活性を有意に抑制した。この結果は、C4-2AT6の生存シグナルは、PI3K/Aktシグナル経路に、より依存していること、が示唆された。そこで、PI3K/Aktシグナル経路の活性化がAT1Rの発現上昇に寄与するのではないかと考え、C4-2AT6において、LY294002の投与下におけるAT1Rの発現を検討した。LY294002は濃度依存性にリン酸化Aktを抑制し、AT1Rの発現をも抑制した。

結論

CRPCにおけるAT1Rの発現上昇の一因として、PI3K/Aktシグナル経路の活性化が明らかとなった。これらの結果は、ARBを血管新生抑制剤として臨床応用する際の、分子基盤を提供するものと考えられる。

文責 小坂 威雄

Angiotensin II type 1 receptor expression and microvessel density in human bladder cancer
Suguru Shirotake, Akira Miyajima, Takeo Kosaka, Nobuyuki Tanaka, Takahiro Maeda, Eiji Kikuchi, Mototsugu Oya
Urology 2011, Feb 4 [Epub ahead of print]

要約

背景及び目的

膀胱癌のTUR検体におけるAT1Rの発現とMVDを免疫組織学的に検討し、臨床統計学的解析を行った報告はない。我々は膀胱癌におけるAT1Rの発現とMVDの臨床的意義について検討した。

患者と方法

1995年から2002年の間、当院で初回TUR-Btを施行した108例のAT1RとCD34の免疫染色を行い、各種臨床的パラメータとの関連を検討した。膀胱内非再発率や非進展率はKaplan-Meier法により算出し、有意差の検定はLog-rank testを用いた。多変量解析はCoxの比例ハザードモデルを用いて独立した危険因子を検討した。

結果

平均観察期間は84ヶ月(26-174ヶ月)、初回TUR平均年齢は66.6歳(41-80歳)であった。筋層浸潤癌(MIBC)は29例、筋層非浸潤癌(NMIBC)は79例であった。MVD はNMIBCよりMIBCでより高発現していた(p<0.0001)。AT1RはNMIBCやlow gradeと比較してMIBC(p=0.0004)やhigh grade(p=0.0063)の症例でより強く発現し、MVDと有意に相関した(p<0.05)。これらはMIBCにおける局所進展や転移、癌特異的生存率、およびNMIBCにおけるMIBCへの進展と有意な相関を認めなかった。しかしNMIBCの膀胱内非再発率を単変量解析で検討すると、AT1Rの高発現(p=0.02)、MVDの高発現(p<0.0001)、tumor multiplicity (p=0.0007)、BCG 膀注療法無し (p=0.0026)が有意な危険因子であった。多変量解析の結果、5年膀胱内再発の独立危険因子はtumor multiplicityとBCG膀注療法無しであったが、1年膀胱内再発の独立危険因子はAT1R高発現(p=0.01, ハザード比 4.0)とMVD高発現(p=0.001, ハザード比 7.8)であった。

結論

TUR切片におけるAT1RとMVDはNMIBCの早期膀胱内再発に関与し、新たな膀胱内再発の予測因子ならびに治療標的となり得る可能性が示唆された。

文責 城武 卓

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Could patient age influence tumor recurrence rate in non-muscle invasive bladder cancer patients treated with BCG immunotherapy?
Kazuyuki Yuge, Eiji Kikuchi, Kazuhiro Matsumoto, Toshikazu Takeda, Akira Miyajima, and Mototsugu Oya
Jpn J Clin Oncol. 2011 Jan 13. [Epub ahead of print]

要約

目的

高齢者における筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)に対するBCG膀胱注入療法の効果・影響について、未だはっきりとした評価がなされていない。今回の分析ではBCG膀胱注入療法において患者の年齢が再発予防効果に影響を与えるのか、また、副作用は年齢によって異なるのかを評価することが目的である。

方法

1981年から2005年に慶應義塾大学病院にてNMIBCと診断され経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を施行された1252例の内、術後にBCG膀胱注入療法を施行された447例を対象とした。平均年齢は64.7歳、平均観察期間は4.2年であった。患者の年齢や臨床病理因子と膀胱内再発との関連を統計学的に検討した。副作用は発熱・血尿・膀胱炎症状の3種をさらにMajorとMinorに分けて分析を行った。

結果

患者を55歳未満(N=86)、55歳以上65歳未満(N=143)、65歳以上75歳未満(N=132)、75歳以上(N=86)の4群にわけた。各年齢群において患者背景には有意な差は認めなかった。その4群の膀胱内非再発率についてKaplan-Meier curveにて分析を行うと、55歳以上65歳未満の群は75歳以上の群より膀胱内非再発率が高い結果となった。(p=0.029) またCox比例ハザードモデルでの分析では、膀胱癌の既往とGradeは膀胱内再発を予測する独立した因子であったが、(p=0.005, 0.030)年齢は独立した因子ではなかった。 BCG膀胱注入療法施行患者の71.1%が少なくとも1つの副作用が出現することが分かった。また、その副作用によって入院の必要のあった患者は1.3%であった。BCG膀胱注入療法の副作用は若年者の方が高齢者と比較して発熱の発生が高く、一方、膀胱炎症状においては低くなる傾向を認めた。

結論

今回の分析では、BCG膀胱注入療法において患者年齢は膀胱内再発に影響しないことが示された。また、副作用の発現においては年齢によって出現する副作用には差があるが、高齢者が若年者と比較して高率に副作用を認めることは示されなかった。 高齢者へのBCG膀胱注入療法は注意しながらではあるが、安全に施行できることが示された。

文責 弓削 和之

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.17

Takahiro Maeda, Eiji Kikuchi, Kazuhiro Matsumoto, Akira Miyajima, and Mototsugu Oya
Title: Urinary pH Is Highly Associated With Tumor Recurrence During Intravesical Mitomycin C Therapy for Nonmuscle Invasive Bladder Tumor. J Urol.2011 185(3):802-6

要約

目的

筋層非浸潤性膀胱癌に対する術後MMC膀胱注入療法を行う際に、尿をアルカリ化するこがより治療効果があると各種の膀胱癌治療ガイドラインに掲載されているが、その科学的根拠は充分に検討がなされていない。今回は、MMC膀胱注入療法時の尿pH 値とMMCの治療効果について検討を行った。

方法

1985年から2008年まで当院にて経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した患者のうち、術後にMMC膀胱注入療法を施行した患者を抽出し、MMCを膀胱内に注入時の尿のpHを測定記録していた124例(男性93:女性31)を対象とした。尿のpHの平均値を0.5ずつ区切り、グループ化し、尿のpH と臨床病理学的関連性について検討した。

結果

MMC膀胱内注入時の尿のpHの平均値は5.76であった。尿pHの平均値を0.5ずつ区切ると、pH値が5.00‐5.49、5.50‐5.99、6.00‐6.49、6.50‐6.99、7.00以上の群はそれぞれ39人、46人、25人、7人、7人であった。全体の患者をpHが5.5未満(N=39人)と5.5以上(N=85人)の2群に分けた場合、多変量解析では、腫瘍の多発性と尿のpH値が再発に関する独立した危険因子であった。3年、5年非再発率はpH5.5以上で64.2、41.9%であるのに対しpH5.5未満では52.9、38.4%であった(p値=0.046)。また、尿pH 値をpH=5.4、5.2を基準に2群に区切った場合、再発に対する尿pH 値の危険度(HR)は、それぞれHR=1.84、2.54と尿pH値が低くなるにつれ再発危険度が上昇した。

結論

筋層非浸潤性膀胱癌に対する術後MMC膀胱注入療法を行う際に尿のpHを5.5以上に保つことは腫瘍再発のリスクを軽減させる可能性が示唆された。よって、MMCの膀胱内注入治療を行う際に尿中pH値を監視し、尿をアルカリ化することは重要かと考えられた。

文責 前田 高宏

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.16

Technical difficulties of transumbilical laparoendoscopic single-site adrenalectomy: comparison with conventional laparoscopic adrenalectomy.
Masaru Ishida, Akira Miyajima, Toshikazu Takeda, Masanori Hasegawa, Eiji Kikuchi, Mototsugu Oya . World J Urol. 2010 Dec 28. [Epub ahead of print]

目的

近年単孔式腹腔鏡下手術への注目が高まっている。手術機器の発達がこの手術を可能にしたが、従来の腹腔鏡下手術と比較して難易度が高く未だ広く普及していない。今回我々は、臍部単孔式腹腔鏡下副腎摘除術(LESS)の安全性を検証し、腹腔鏡下副腎摘除術(Laparo)との技術的な相違点を明らかにした。

方法

2006年3月から2010年4月までに良性副腎腫瘍に対して同一術者が連続して施行したLaparo 10例とLESS 10例を対象とした。両群の術前因子および経過を比較検討し、手術ビデオの解析により手術手技の技術的特徴を解析した。

結果

Laparoの開腹手術への移行やLESSのポート追加例は無く、両群とも周術期合併症を認めなかった。両群間で手術時間、出血量、経口摂取開始までの期間に有意な差を認めなかった。気腹時間はLESSが長い傾向があったが有意差は認めなかった(91.2 vs. 74.3分, P = 0.257)。LESSでは組織把持のやり直し回数が有意に多く(16.2 vs. 2.2 回, P < 0.001)、把持鉗子の調整に時間を要した(14.5 ± 8.1 分)。把持鉗子の調整時間を除くと気腹時間の差は更に少なくなった(76.7 vs. 74.3 分, P = 0.880)。LESSの片手操作の時間は手術経験とともに減少した(r = -0.806, P < 0.01)。

結論

LESSはLaparo同様に施行し得る手術だが、技術的難点が存在しこれらを克服する事が普及につながると考察された。

文責 石田 勝

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Nobuyuki Tanaka, Eiji Kikuchi, Kazuhiro Matsumoto, Akira Miyajima, Ken Nakagawa, and Mototsugu Oya
Title: Frequency of Tumor Recurrence: A Strong Predictor of Stage Progression in Initially Diagnosed Nonmuscle Invasive Bladder Cancer.
J Urol. 2010 Dec 15

要約

目的

筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)の経過中の膀胱内再発の頻度がその後の腫瘍進展に与える影響は現在まで殆ど検討されてない。今回はNMIBCの経過中の膀胱内再発の頻度を初回治療から1・2・3年の各観察期間の再発をRecurrence rate(回/年)として計算し、その後の進展予測因子としての可能性を検討した。

方法

1985年から2006年に慶應義塾大学病院にてNMIBCと診断され初回治療が行われた484例を対象とした。平均年齢は64.8歳、平均観察期間は7.2年であった。臨床病理因子、膀胱内注入療法の有無、Recurrence rateと腫瘍進展との関係を統計学的に検討した。

結果

経過中の腫瘍進展は40名(8.3%)に認められた。単変量解析では、初回治療から1・2・3年いずれの観察期間においてもRecurrence rate>1回/年がその後の腫瘍進展を予測する有意な因子であった。初回治療から2年のRecurrence rateを用いた多変量解析では、G3の有無(p= 0.027, risk ratio 2.36)、CISの有無(p= 0.045, risk ratio 2.44)と共にRecurrence rate>1回/年 (p<0.001, risk ratio 7.40)がその後の腫瘍進展を予測する独立した危険因子であった。初回治療から1・3年のRecurrence rateを用いた多変量解析でも同様の結果であったが初回治療から2年のRecurrence rateが最も強くその後の腫瘍進展を予測した。初回治療より2年のRecurrence rateが 1回/年以上あった群では10年非進展生存率は58.0%であり、対照群は93.3%であった(p<0.001)。

結論

NMIBCにおける経過中の膀胱内再発頻度は腫瘍進展を予測する独立した危険因子であった。頻回の膀胱内再発、特に初回治療から2年のRecurrence rateが 1回/年以上のNMIBCは悪性度が高く、悪性度に応じたFollow-up protocolの構築や早期の膀胱全摘術を考慮する必要が考えられた。

文責 田中 伸之

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The Clinical Impact of the Classification of Carcinoma In Situ on Tumor Recurrence and their Clinical Course in Patients with Bladder Tumor.
Hayakawa N, Kikuchi E, Mikami S, Matsumoto K, Miyajima A, Oya M.
Jpn J Clin Oncol. 2010 Dec 17. [Epub ahead of print]

目的

当院で診断した膀胱上皮内癌(CIS)の再発およびその臨床経過に関して、CISの分類に基づいて解析・検討した。

対象・方法

1993年1月から2008年9月までに当院にて初発のCISと診断された症例を、再度一人の泌尿器専門病理医により診断し直した。その結果CISとの診断であった93例を対象とした。このうちBCG膀胱注入療法を施行したのは69例(74.2%)であった。また、これらはEAUガイドラインに基づいて、primary, concurrent, secondaryに分類した。

結果

多変量解析の結果、secondary CISとBCG膀注未施行が、それぞれ独立した再発の危険因子であった。primary, concurrent, secondary CISの各5年非再発率は60.9, 63.2, 25.4%であり、secondary CISは他の2群に比べ、有意に再発を認めた(vs primary:p=0.023、vs concurrent p=0.006)。また、1st BCG膀注後に再発を認めた19例中13例に対し2nd BCG膀注を行ったが、最終的に6例で遠隔転移をみとめ3例で上部尿路再発を認めた。一方、2ndBCG膀注後にtumor-freeとなったのは4例であった。

考察

CISに対する1st BCG膀注は有意に膀胱癌の再発を予防するが、その後再度、再発した膀胱癌に対する2ndBCG膀注に関しては、その効果はまだ限定的である。

文責 早川 望

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.15

Expression of Snail in upper urinary tract urothelial carcinoma: Prognostic significance and implications for tumor invasion
Takeo Kosaka, Eiji Kikuchi, Shuji Mikami, Akira Miyajima, Suguru Shirotake, Masaru Ishida, Takahiro Maeda, Yasunori Okada, Mototsugu Oya
Clin Cancer Res. 2010 Oct 14. [Epub ahead of print]

要旨

目的

上部尿路上皮癌(UTUC)の予後を予測する有用なマーカーはほとんど知られていない。Snailは上皮間葉転換(EMT)を制御する転写因子として知られ、がんの進展に深く関与することが報告されてきているが、UTUCにおける発現の意義や、その機能については未だ明らかになっていない。本研究はUTUCにおけるSnailの発現と、その機能解析を目的とした。

対象と方法

150例のUTUCを対象として、Snailの発現を免疫組織化学的に検討した。Snail機能解析は、尿路上皮がん細胞株(5637, T24, UMUC-3)を対象として、siRNA法にてSnailの発現を特異的に抑制し、接着分子やMMPの発現、ならびに浸潤能を評価した。

結果

表在性UTUCに比較して、浸潤性UTUCでは有意な核内のSnailの発現の上昇を認めた。Snailの発現は、high stage, high grade, 脈管浸潤(LVI)陽性症例において有意に高い傾向を認めた。多変量解析において、Snailの発現は、がん特異的生存率における独立した予後因子であった。生存解析では、LVI陽性かつSnailの発現が高い症例は、最も予後が不良であった。細胞株における検討では、UMUC-3細胞は他の細胞株に比較して、最もSnailの発現と浸潤能が高かった。 UMUC-3細胞において、Snailの発現をsiRNA法にて特異的に抑制したところ、vimentin, MMP2, MMP9の発現を有意に抑制した。その際に、コントロール群に比較して、有意にUMUC-3細胞の浸潤能を抑制した。

結論

Snailの誘導するEMTがUTUCの進展に深く関与していることが明らかになった。SnailはUTUCにおける有用な治療標的となりうることが示唆された。

コメント

上部尿路上皮がん(UTUC)において有用な予後マーカーはほとんど報告されていない。
本研究は当大学病理学教室との共同研究によって、EMTの主要な制御転写因子であるSnailが尿路上皮がんにおいて、EMTを介した浸潤能を制御していること、Snailの発現がUTUCの有用な予後マーカーであることを明らかにした論文である。今後、UTUCの生命予後の改善に向けて、Snailの発現制御機構に関する更なる検討の必要性が示唆される。

文責 小坂 威雄

Nobuyuki Tanaka, Akira Miyajima, Takeo Kosaka, Suguru Shirotake, Masanori Hasegawa, Eiji Kikuchi, and Mototsugu Oya
Title: Cis-dichlorodiammineplatinum Upregulates Angiotensin II Type 1 Receptors through Reactive Oxygen Species Generation and Enhances VEGF Production in Bladder Cancer. Mol Cancer Ther, 2010 Oct 26.

要約

背景(本研究の着想に至るまでの歩み)

Angiotensin (Ang II)変換酵素(ACE)阻害剤がNeuroblastoma Cellの増殖を抑制したと報告され (Eur J Pharmacol, 1991)、高血圧でACE 阻害剤を服用した患者で癌発生のリスクが減少していることが明らかとなり (Lancet, 1998)、Ang IIの血管新生との関係が注目された。その後Ang II 受容体のなかでもType I 受容体(AT1R)は血管新生に関与していることが判明した。AT1R は様々な癌でその発現が報告され、これまで当教室ではAT1R blockerであるARBの血管新生抑制による抗腫瘍効果を報告してきた(Miyajima et al. Cancer Res, 2002, Kosugi et al. Clin Cancer Res, 2006, Kosaka et al. Prostate, 2007)。さらに膀胱癌においてG-CSF産生性膀胱癌細胞株KU-19-19を用いて、ARBと抗癌剤の併用療法について検討を行い(Kosugi et al. Human cell, 2007, Kosugi et al. Urology, 2009)、特にCDDPとの併用療法ではARBの著明な抗腫瘍効果の増強を報告した。しかしながら、CDDP併用療法による相互作用についての分子機序の解明は依然不十分であった。
一方、CDDPを中心とする抗癌剤投与に伴うVEGF・IL-8の発現亢進が以前より報告されている。当教室では独自に樹立したホルモン不応性前立腺癌細胞株C4-2 AT6を用いて、AT1RのAng II刺激を介したHIF-1α・Ets-1の発現誘導を報告しており(Kosaka et al. Prostate, 2009)、一連の研究から抗癌剤(CDDP)がAT1Rを介した血管新生に何らかの作用を引き起こしている可能性に注目した。心血管系の分野では、Reactive Oxygen Spesies(ROS)に伴うAT1Rの発現上昇が既に証明されており(Sophie et al. Hypertention,2009)、また膀胱癌細胞においてはCDDP投与がROS上昇に強く関与していることから(Miyajima et al. Br. J. Cancer, 1998, Miyajima et al. JJCR, 1999)、CDDPの投与がAT1R自体に対して影響を与えているのではないかと仮定し本研究を着想するに至った。

方法

In vitroにおいては膀胱癌細胞株UMUC-3、 5637、 T24、 KU-1、 KU-19-19、計5種類の細胞株を用いた。In vivoの検討ではT24細胞を用いた。WST-1 assayを用い、CDDPの 各種膀胱癌細胞への殺細胞効果及びARB併用による相互作用を検討した。各種膀胱癌細胞におけるAT1R・VEGF発現量はIn vitroにおいてはWestern Blot法・PCR法を用いて、またIn vivoではWestern Blot法・免疫組織学的染色を用い検討した。CDDP投与に伴うAng II依存性VEGF発現量の変化をELISAにて測定した。CDDPによる術前化学療法が行われ、その後膀胱全摘術が施行された膀胱癌臨床検体を用い、CDDP投与に伴うAT1R・VEGF発現の変化を免疫組織学的染色を用い検討した。マウス皮下腫瘍モデルを作成し、臨床応用可能な投与量でのCDDP・ARB併用療法の抗腫瘍効果を検討した。

結果

CDDP投与に伴いAT1Rの発現はin vitroにおいてT24、 KU-1、 KU-19-19で有意に発現上昇が認めた。一方UMUC-3、 5637では有意な発現上昇は認めなかった。AT1R発現上昇が認められたT24、 KU-1、 KU-19-19細胞ではCDDP投与に伴うROS上昇が有意に認められたが、UMUC-3、 5637細胞では認められなかった。CDDP投与に伴うROS上昇をFree radical scavengerにて抑制しAT1R発現の変化を検討したところ、AT1R上昇はFree radical scavenger投与により有意に抑制された。次にin vitroにおいてCDDP投与下にAng IIで刺激を加えVEGFの発現量をELISAで検討したところ、CDDP投与下ではAng II刺激にて有意にVEGF発現上昇を認められ、ARBにより抑制された。同様にIn vivoにおいてAT1R・VEGFの発現をCDDP非投与群と比較したところ約2倍の有意な上昇が確認された。膀胱癌臨床検体における化学療法後のAT1R・VEGF発現変化を免疫組織学的に検討したところ、術前化学療法が施行された膀胱全摘除術標本では術前のTUR切片と比較し有意にAT1R・VEGFの発現が上昇していた。マウス皮下腫瘍モデルを作成しCDDP・ARB併用療法の抗腫瘍効果を検討したところ、臨床応用可能な投与量でのARBによる腫瘍増殖抑制の増強が確認された。

結論

CDDP存在下の膀胱癌では、AT1Rの発現が上昇し、それに伴うAng II刺激への感受性亢進が更なる血管新生の誘導に関与している可能性が示唆された。CDDP・ARB併用の新規レジメンはその有用性が示唆された。

文責 田中 伸之

Benefit of Laparoscopic Radical Nephrectomy in Patients with a High BMI
Hagiwara M, Miyajima M, Matsumoto K, Kikuchi E, Nakagawa K, and Oya M. Jpn J Clin Oncol. 2010 Oct 5. [Epub ahead of print]

目的

当院における腎癌に対する体腔鏡下腎摘除術(LRN)及び開腹腎摘除術(ORN)の出血量及び手術時間に影響を与える因子について統計学的検討を行い、BMI高値の患者における体腔鏡の有用性について検討した。

対象と方法

2002年1月から2007年12月までに当院にて腎癌に対しLRNを施行された93症例と2000年1月から2007年12月までにORNを施行された91症例を対象とし、出血量及び手術時間に影響を与える因子について比較検討を行った。

結果

LRNにおいて、年齢、性別、BMI、腫瘍部位、腫瘍径、病期について単変量解析を行った結果、BMIのみが出血量(p=0.017)及び手術時間(p=0.018)に影響を与える因子であった。多変量解析においても、BMI(p=0.030、odds ratio; 1.174)は手術時間に影響を与える独立した因子であった。BMIはORNにおいてもまた出血量(p<0.001)及び手術時間(p<0.001)に影響を与える因子であった。多変量解析の結果、ORNにおいてはBMI(p=0.030、odds ratio; 1.174)と腫瘍径(p=0.030, odds ratio; 1.320)が手術時間に影響を与える独立した因子であり、ORNにおけるBMIのオッズ比はLRNよりも高い値を示した。

考察

腎癌に対する根治的腎摘除術においては、術式を問わずBMIが手術成績に影響を与える因子であったが、LRNはORNと比較しその影響は少なく、BMI高値の患者に対し、より安全に施行可能であることが示唆された。

文責 萩原 正幸

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.14

The clinical significance of urine cytology after a radical cystectomy for urothelial cancer.
Yoshimine S, Kikuchi E, Matsumoto K, Ide H, Miyajima A, Nakagawa K, Oya M. Int J Urol. 2010 Jun;17(6):527-32.

目的

膀胱全摘除、尿路変向術後の早期上部尿路再発(UTR)診断における尿細胞診の有効性について検討した。

対象と方法

1987年1月から2005年12月までに当院において施行された膀胱全摘除術のうち、組織学診断で尿路上皮癌成分を認めた125例を対象とした。手術時の平均年齢67.6歳、男性89人、女性36人。尿路変向は回腸導管73人、自己導尿型32人、自排尿型19人、尿管皮膚ろう1人であった。観察期間の中央値は64ヶ月であった。なお、class III以上を尿細胞診陽性例と判断した。

結果

UTRは8例に認められた。術後尿細胞診陽性は17例であった。UTR例のうち6例は尿細胞診陽性であり、2例は尿細胞診陰性であった。UTR診断における尿細胞診の感度は75.0%、特異度は90.6%であった。しかしながら、定期画像検査、あるいは自覚症状の出現よりも先行して尿細胞診が陽性であったものは、尿細胞診陽性であった17例のわずか1例(5.9%)のみであった。残りの5例は定期画像検査、あるいは自覚症状の出現に遅れて尿細胞診が陽性になった。尿細胞診陽性であった17例中11例(64.7%)が擬陽性であり、その11例中8例(72.7%)は1回のみ尿細胞診が陽性であった。

考察

尿路変向術後の尿は、変性した腸上皮粘膜が混在しているため、尿路上皮癌細胞との鑑別が難しい。尿細胞診は、UTRの早期診断におけるスクリーニングツールとしてはあまり有効でない可能性が示唆された。

文責 吉峰 俊輔

Contrast-enhanced Ultrasonography of the Prostate with Sonazoid.

Matsumoto K, Nakagawa K, Hashiguchi A, Kono H, Kikuchi E, Nagata H, Miyajima A, Oya M.

Jpn J Clin Oncol. 2010 Jun 24.

目的

前立腺癌の確定診断は、超音波検査下生検によって得られる。しかしその際、通常の超音波検査では必ずしも前立腺癌病巣は同定できていないのが現状である。今回われわれは第2世代超音波造影剤ソナゾイド®を用い、前立腺癌病巣の描出能の検討をProspectiveに行った。

対象と方法

前立腺癌と診断され前立腺全摘術を予定された50人を対象とした。術前に通常の経直腸的超音波検査と造影超音波検査を実施し、前立腺癌病巣の局在を同定した。後日、その結果と前立腺摘出検体の病理組織結果とを比較検討した。

結果

通常の超音波検査では、20人(40%)において少なくとも一か所の前立腺癌病巣を同定できた。一方造影超音波検査では31人(62%)において、癌病巣の造影効果を認めた。さらに両者をCombineすることにより40人(80%)の病巣を同定できた。特に大きな腫瘍やPZ癌、また悪性度の高い癌において特に強い造影効果を認めた。

結論

第2世代超音波造影剤ソナゾイド®を用いることにより、前立腺癌病巣の検出率が向上することが示唆された。本手法は前立腺癌のTarget biopsyに応用できる可能性があると考えられた。

文責 松本 一宏

Clinical impact of bladder biopsies with TUR-BT according to cytology results in patients with bladder cancer: a case control study.
Masashi Matsushima, Eiji Kikuchi, Masanori Hasegawa, Kazuhiro Matsumoto, Akira Miyajima, and Mototsugu Oya
BMC Urol. 2010 Jun 30;10(1):12

要旨

目的

正常粘膜および不整粘膜へのBladder biopsiesは筋層非浸潤性膀胱癌に対する全体的な治療方針の決定に示唆を与えるものと考えられているが、未だその十分な根拠は存在しない。今回我々はTUR-BT施行時に、Bladder biopsiesを正常粘膜に行った群と不整粘膜に行った群に分け、尿細胞診との関係、臨床的意義を検討した。

方法

1998年から2005年までに、当院にて筋層非浸潤性膀胱癌に対しTUR-BTを施行した424例を対象とした。そのうちBladder biopsiesを行ったのは293例で、Bladder biopsiesを正常粘膜に行ったのは234例、不整粘膜に行ったのは59例であった。

結果

TUR-BTで癌が検出されず、Bladder biopsiesのみから癌が検出された症例は存在しなかった。また当院ではup-stage症例、up-grade症例は認めなかった。Bladder Biopsiesの追加により、正常粘膜では8例、不整粘膜では13例において、より悪性の診断がなされた。そのうち正常粘膜においては5例でCISの検出を認めたが、すべて尿細胞診陽性であった。一方、不整粘膜においては9例でCISの検出を認め、うち3例は尿細胞診陰性であった。Bladder biopsiesの結果をふまえて治療方針が変更された症例は存在しなかった。多変量解析の結果、Bladder biopsiesの追加は有意な再発危険因子ではなかった。

結論

術前尿細胞診陰性の症例では、正常粘膜にBladder biopsiesを追加する臨床的意義は少ないと考えられた。一方で、不整粘膜へのBladder biopsiesは尿細胞診陰性であっても必要と考えられ、EAUガイドラインを支持する結果となった。

文責 松島 将史

Regulation of human dendritic cells by a novel specific nuclear factor-kappaB inhibitor, dehydroxymethylepoxyquinomicin.

Shinoda K, Nakagawa K, Kosaka T, Tanaka N, Maeda T, Kono H, Mizuno R, Kikuchi E, Miyajima A, Umezawa K, Oya M.

Hum Immunol. 2010 May 24. [Epub ahead of print]PMID: 20573582 [PubMed - as supplied by publisher]Related citations

目的

成熟樹状細胞は抗原提示細胞の一つであり、その成熟抑制は、免疫抑制療法の一つとして重要である。樹状細胞成熟の過程でNF-κBは重要な転写因子の一つである。今回、我々は新規NF-κB阻害剤dehydroxymethylepoxyquinomicin(DHMEQ)を未熟樹状細胞に前投与し、LPS刺激下に成熟が抑制されるかを検討し、更にallogeneic T cellとの混合培養においてT細胞の分化抑制、制御性T細胞の誘導に対する影響を検討した。

方法

ヒト末梢血単球細胞より樹状細胞を作成した。DHMEQをLPS刺激2時間前に投与した群(dl-DC), LPS刺激24時間群(m-DC), 未熟樹状細胞(im-DC)を作成した。これらを用い、細胞障害試験、核内活性化NF-κB assay (ELISA), フローサイトメトリーによる細胞表面抗原発現、サイトカイン産生能、real time PCR, 混合リンパ球試験, 共培養T細胞における細胞内抗炎症サイトカイン発現の検討(フローサイトメトリー)を行った。

結果

DHMEQはdl-DCに対し、10μg/mlで細胞毒性が見られたため、dl-DCはDHMEQ5μg/ml投与で作成した。m-DCはLPS刺激後24時間持続して、核内へのNF-κB移行が見られた。一方dl-DCにおいてはLPS刺激後24時間持続して核内へのNF-κB移行が抑制された。また、dl-DCのIL-6, TNF-α , IL-12 p40 の転写、発現量は、m-DCに比し有意に抑制された。特にIL-12p70の抑制効果が著明であった。一方で抗炎症性サイトカインであるIL-10の転写、発現はDHMEQ投与により抑制されなかった。dl-DCはCD40, HLA-DRの発現が抑制されていたが、CD80, CD86に関してはm-DCとim-DCの中間の発現量であり、またエンドサイトーシス能もm-DCとim-DCの中間であった。つまりdl-DCはsemi-mature DC(生体において自己寛容の機能を担う)の特徴を持っていた。また dl-DCのTh1細胞(IFN- γ陽性細胞)誘導率は有意に低く、一方で制御性T細胞(IL-10, TGF-β産生細胞)(注)誘導率は有意に高かった。

考察

DHMEQ前投与によって樹状細胞の成熟化が抑制され、その樹状細胞はsemi-mature DCの特徴を有していた。エフェクターT細胞活性化を抑制することが可能であり、IL-10産生T細胞の誘導能が高かった。DHMEQは最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞に対して免疫抑制効果および免疫寛容誘導の可能性を有することが示唆され、今後の新たな免疫抑制療法の一つとして期待される。

(注)ヒトT細胞においてはFoxp3はエフェクター細胞でも上昇することが分かっているので本検討ではFoxp3の発現はあえて見ていない。

文責 篠田 和伸

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.13

Potent Cytotoxic Effect of a Novel Nuclear Factor-kappaB Inhibitor Dehydroxymethylepoxyquinomicin on Human Bladder Cancer Cells Producing Various Cytokines.
Kodaira K, Kikuchi E, Kosugi M, Horiguchi Y, Matsumoto K, Kanai K, Suzuki E, Miyajima A, Nakagawa K, Tachibana M, Umezawa K, Oya M
Department of Urology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan.
Urology. 2010 Feb 13.

目的

特徴的に白血球増加症を引き起こすサイトカイン産生ヒト浸潤性膀胱がん細胞株、KU−19−19細胞に対して、新規に合成されたNF-κB活性抑制剤であるDHMEQを用いて、治療効果についての検討を行った。

方法

In vitroではKU−19−19細胞内にNF-κBを構成しているp65 タンパクが発現しているかをウエスタンブロット法にて確認し、次にNF-κBの活 性はゲルシフトアッセイ(EMSA)で検討した。さらにDHMEQの殺細胞効果とアポ トーシスの誘導を証明し、サイトカイン産生に関しては細胞培養液の上清を用いてエ ライザ法(ELISA)にて測定した。In vivoではヌードマウスに対してK U−19−19細胞による皮下腫瘍モデルを作成し、DHMEQを2mg/kg/日 で3週間連日投与した。効果の検討は腫瘍径の比較、さらには微小血管密度(mic rovessel density)や血管内皮増殖因子(VEGF)、アポトーシ ス関連の免疫染色を用いて評価した。

結果

KU−19−19細胞は恒常的にNF-κBが活性していることを確認した上で、DHMEQがNF-κBの核内移動を抑制することでNF-κBの活性抑制を行っていることを証明した。また細胞活性とサイトカイン産生についてはDHMEQによる抑制が強く認められ、濃度依存性も存在することが判明し、加えてアポトーシスが著明に誘導されていることも認められた。In vivoではDHMEQにより、明らかな腫瘍径の縮小効果がコントロールに比して認められた。さらには免疫組織化学的検討でも微小血管密度や血管内皮増殖因子の抑制と抗アポトーシス効果も証明された。

結論

DHMEQによるNF-κB活性抑制は高悪性度の膀胱癌に対する新たな分子標的療法の一つとして臨床応用の可能性が示唆された。

文責 古平喜一郎

Late Recurrence and Progression in Non-muscle-invasive Bladder Cancers After 5-year Tumor-free Periods.
Kazuhiro Matsumoto, Eiji Kikuchi, Yutaka Horiguchi, Nobuyuki Tanaka, Akira Miyajima, Ken Nakagawa, Jun Nakashima, Mototsugu Oya
Urology. 2010 Jan 26.

要旨

目的

晩期に再発や進展する筋層非浸潤性膀胱癌は稀ではないが、特に5年間無再発以降のFollow-upの指針はGuideline上もはっきりと示されていない。今回われわれは、5年間再発の無かった筋層非浸潤性膀胱癌症例をReviewし、その後の再発および進展につき検討を行った。

対象と方法

当院にて1985年から2002年までにTUR-BTが施行され、その内5年間再発を認めなかった262人の患者を本研究の対象とした。平均観察期間は10.0年であった。対象症例をAUAのguidelineをもとに、High risk、Intermediate risk、Low riskgroupの3群に分類し、5年間無再発以降の再発および進展につき検討を行った。

結果

5年、10年非再発率は81.6%、76.0%であったが、risk group間に再発率の有意差を認めなかった。しかし、Low risk groupには10年間無再発以降に再発を来たした症例は無かった。多変量解析の結果、唯一の再発危険因子はTUR-BT後のMMC膀胱内注入の既往であった(p=0.01, HR 4.00)。5年間無再発以降に5症例に進展を認め、3人が癌死していたが、進展した5例はすべてHigh risk groupの症例であった。

考察

5年間再発を認めなかった筋層非浸潤性膀胱癌においては、すべてのrisk groupで同様に晩期再発を認めるため、たとえLow risk groupにおいても少なくとも10年目までFollow-upを継続する必要があると考えられた。またMMC膀胱内注入症例に5年目以降の再発を多く認める傾向があり、Follow-upの際注意が必要であると考えられた。一方、5年目以降に進展する症例をHigh risk groupには認めたため、定期的なCT等の画像検査が必要であると考えられた。

文責 松本一宏

Adrenocortical Zonation in Humans under Normal and Pathological Conditions.
「ヒト正常・病態における副腎皮質の組織構築と機能分化」

Koshiro Nishimoto, Ken Nakagawa, Dan Li, Takeo Kosaka, Mototsugu Oya, Shuji Mikami, Hirotaka Shibata, Hiroshi Itoh, Fumiko Mitani, Takeshi Yamazaki, Tadashi Ogishima, Makoto Suematsu, and Kuniaki Mukai. J Clin Endocrinol Metab. in press.

背景

アルドステロン(Aldo)合成酵素(CYP11B2)と11betaOH化酵素(CYP11B1)はそれぞれAldoとコルチゾールの最終合成に関わる。それゆえに、これらの2酵素がAldo産生細胞とコルチゾール産生細胞の局在を規定する。しかし、CYP11B2と-B1はアミノ酸配列が93%同一であり、免疫組織化学的に識別することは従来不可能であった。そのため、正常副腎皮質及び副腎皮質疾患におけるこれらの2酵素の発現・局在はほとんど不明のままであった。

目的

CYP11B2および-B1を互いに区別する抗体を用い、正常組織及び病態におけるCYP11B2と-B1の局在を明らかにすること。

結果

ヒト正常副腎皮質の球状層、束状層にそれぞれCYP11B2、-B1が検出された。球状層を含む外側領域には、CYP11B2と-B1のどちらも検出されない未分化副腎皮質細胞が認められた。これらの結果はヒト副腎皮質組織が従来から知られた層状機能分化(conventional zonation)を持つこと示す。加えて、我々は、ヒト正常副腎皮質には被膜下にCYP11B2を高発現する細胞クラスター(Aldosterone-producing cell cluster, APCCと命名)が高頻度に存在することを発見した。APCCが存在する部位は、APCCとそれ以外のCYP11B1発現領域からなる斑入り状の組織構造(variegated zonation)を構成していた。原発性Aldo症患者から摘出されたAldo産生腺腫(Aldo-producing adenoma, APA)にはCYP11B2, -B1両方の発現が認められた。一方、クッシング症候群から摘出されたコルチゾール産生腺腫(Cortisol-producing adenoma, CPA)にはCYP11B1の高発現が認められ、非腫瘍副腎は萎縮していた。興味深いことに、APAとCPAの非腫瘍副腎には高頻度にAPCCが認められ、CYP11B2を高発現していた。この結果はAldoまたはコルチゾールの過剰産生がレニン-アンギオテンシン系を抑制するにもかかわらず、APCCはCYP11B2を高発現することを示す。

結論

本研究の結果から、我々は「ヒト副腎皮質には従来の層状機能分化に加え、斑状機能分化が存在すること」、「Aldo合成は球状層において誘導的、APCCにおいて構成的であること」を提唱する。さらに我々が新たに確立したCYP11B2と-B1の免疫組織化学法は、副腎腺腫の病理学的確定診断法として有用であると考える。

文責 西本紘嗣郎

How Do Young Residents Practice Laparoscopic Surgical Skills?
Akira Miyajima, , Masanori Hasegawa, Toshikazu Takeda, Kouetsu Tamura, Eiji Kikuchi, Ken Nakagawa and Mototsugu Oya
Urology, 2010 March 17, E-pub ahead of print

目的

鏡視下手術は普及定着しつつあるものの,確固とした教育システムが確立されていないのが現状である。本検討では,若手レジデントを対象としドライボックスを用いて鏡視下手技において一定の学習方法を試みた。

方法

当科に在籍する6年医と3年医の計11人を対象に,ドライボックスにおける作業(切開,縫合)を持続的に16週間に渡りテストした。

結果

テストされた全員に明らかな学習曲線を認めた。当初は6年医の方が3年医より良好な成績を記録する傾向にあったが、練習ならびにテストを繰り返すにつれ、両群に有意差は認めなくなった。最終テスト結果に影響を与える因子はそれまでの臨床経験ではなく、練習時間(週100分以上)であった。最終テストに向けて施行された平均練習時間は週79.1分であった。

考察

鏡視下手術手技は,より専門的技術を習得しようという高いモチベーションと自発的な十分な練習によって磨かれることが明らかとなった。しかし,より有効な学習方法と教育方法を見いだすという観点からすれば,検討の余地は十分にあり,我々はまだそのタスクの第一歩を踏み出したに過ぎない。

文責 宮嶋哲

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.15

Expression of Snail in upper urinary tract urothelial carcinoma: Prognostic significance and implications for tumor invasion
Takeo Kosaka, Eiji Kikuchi, Shuji Mikami, Akira Miyajima, Suguru Shirotake, Masaru Ishida, Takahiro Maeda, Yasunori Okada, Mototsugu Oya
Clin Cancer Res. 2010 Oct 14. [Epub ahead of print]

要旨

目的

上部尿路上皮癌(UTUC)の予後を予測する有用なマーカーはほとんど知られていない。Snailは上皮間葉転換(EMT)を制御する転写因子として知られ、がんの進展に深く関与することが報告されてきているが、UTUCにおける発現の意義や、その機能については未だ明らかになっていない。本研究はUTUCにおけるSnailの発現と、その機能解析を目的とした。

対象と方法

150例のUTUCを対象として、Snailの発現を免疫組織化学的に検討した。Snail機能解析は、尿路上皮がん細胞株(5637, T24, UMUC-3)を対象として、siRNA法にてSnailの発現を特異的に抑制し、接着分子やMMPの発現、ならびに浸潤能を評価した。

結果

表在性UTUCに比較して、浸潤性UTUCでは有意な核内のSnailの発現の上昇を認めた。Snailの発現は、high stage, high grade, 脈管浸潤(LVI)陽性症例において有意に高い傾向を認めた。多変量解析において、Snailの発現は、がん特異的生存率における独立した予後因子であった。生存解析では、LVI陽性かつSnailの発現が高い症例は、最も予後が不良であった。細胞株における検討では、UMUC-3細胞は他の細胞株に比較して、最もSnailの発現と浸潤能が高かった。 UMUC-3細胞において、Snailの発現をsiRNA法にて特異的に抑制したところ、vimentin, MMP2, MMP9の発現を有意に抑制した。その際に、コントロール群に比較して、有意にUMUC-3細胞の浸潤能を抑制した。

結論

Snailの誘導するEMTがUTUCの進展に深く関与していることが明らかになった。SnailはUTUCにおける有用な治療標的となりうることが示唆された。

コメント

上部尿路上皮がん(UTUC)において有用な予後マーカーはほとんど報告されていない。
本研究は当大学病理学教室との共同研究によって、EMTの主要な制御転写因子であるSnailが尿路上皮がんにおいて、EMTを介した浸潤能を制御していること、Snailの発現がUTUCの有用な予後マーカーであることを明らかにした論文である。今後、UTUCの生命予後の改善に向けて、Snailの発現制御機構に関する更なる検討の必要性が示唆される。

文責 小坂 威雄

Nobuyuki Tanaka, Akira Miyajima, Takeo Kosaka, Suguru Shirotake, Masanori Hasegawa, Eiji Kikuchi, and Mototsugu Oya
Title: Cis-dichlorodiammineplatinum Upregulates Angiotensin II Type 1 Receptors through Reactive Oxygen Species Generation and Enhances VEGF Production in Bladder Cancer. Mol Cancer Ther, 2010 Oct 26.

要約

背景(本研究の着想に至るまでの歩み)

Angiotensin (Ang II)変換酵素(ACE)阻害剤がNeuroblastoma Cellの増殖を抑制したと報告され (Eur J Pharmacol, 1991)、高血圧でACE 阻害剤を服用した患者で癌発生のリスクが減少していることが明らかとなり (Lancet, 1998)、Ang IIの血管新生との関係が注目された。その後Ang II 受容体のなかでもType I 受容体(AT1R)は血管新生に関与していることが判明した。AT1R は様々な癌でその発現が報告され、これまで当教室ではAT1R blockerであるARBの血管新生抑制による抗腫瘍効果を報告してきた(Miyajima et al. Cancer Res, 2002, Kosugi et al. Clin Cancer Res, 2006, Kosaka et al. Prostate, 2007)。さらに膀胱癌においてG-CSF産生性膀胱癌細胞株KU-19-19を用いて、ARBと抗癌剤の併用療法について検討を行い(Kosugi et al. Human cell, 2007, Kosugi et al. Urology, 2009)、特にCDDPとの併用療法ではARBの著明な抗腫瘍効果の増強を報告した。しかしながら、CDDP併用療法による相互作用についての分子機序の解明は依然不十分であった。
一方、CDDPを中心とする抗癌剤投与に伴うVEGF・IL-8の発現亢進が以前より報告されている。当教室では独自に樹立したホルモン不応性前立腺癌細胞株C4-2 AT6を用いて、AT1RのAng II刺激を介したHIF-1α・Ets-1の発現誘導を報告しており(Kosaka et al. Prostate, 2009)、一連の研究から抗癌剤(CDDP)がAT1Rを介した血管新生に何らかの作用を引き起こしている可能性に注目した。心血管系の分野では、Reactive Oxygen Spesies(ROS)に伴うAT1Rの発現上昇が既に証明されており(Sophie et al. Hypertention,2009)、また膀胱癌細胞においてはCDDP投与がROS上昇に強く関与していることから(Miyajima et al. Br. J. Cancer, 1998, Miyajima et al. JJCR, 1999)、CDDPの投与がAT1R自体に対して影響を与えているのではないかと仮定し本研究を着想するに至った。

方法

In vitroにおいては膀胱癌細胞株UMUC-3、 5637、 T24、 KU-1、 KU-19-19、計5種類の細胞株を用いた。In vivoの検討ではT24細胞を用いた。WST-1 assayを用い、CDDPの 各種膀胱癌細胞への殺細胞効果及びARB併用による相互作用を検討した。各種膀胱癌細胞におけるAT1R・VEGF発現量はIn vitroにおいてはWestern Blot法・PCR法を用いて、またIn vivoではWestern Blot法・免疫組織学的染色を用い検討した。CDDP投与に伴うAng II依存性VEGF発現量の変化をELISAにて測定した。CDDPによる術前化学療法が行われ、その後膀胱全摘術が施行された膀胱癌臨床検体を用い、CDDP投与に伴うAT1R・VEGF発現の変化を免疫組織学的染色を用い検討した。マウス皮下腫瘍モデルを作成し、臨床応用可能な投与量でのCDDP・ARB併用療法の抗腫瘍効果を検討した。

結果

CDDP投与に伴いAT1Rの発現はin vitroにおいてT24、 KU-1、 KU-19-19で有意に発現上昇が認めた。一方UMUC-3、 5637では有意な発現上昇は認めなかった。AT1R発現上昇が認められたT24、 KU-1、 KU-19-19細胞ではCDDP投与に伴うROS上昇が有意に認められたが、UMUC-3、 5637細胞では認められなかった。CDDP投与に伴うROS上昇をFree radical scavengerにて抑制しAT1R発現の変化を検討したところ、AT1R上昇はFree radical scavenger投与により有意に抑制された。次にin vitroにおいてCDDP投与下にAng IIで刺激を加えVEGFの発現量をELISAで検討したところ、CDDP投与下ではAng II刺激にて有意にVEGF発現上昇を認められ、ARBにより抑制された。同様にIn vivoにおいてAT1R・VEGFの発現をCDDP非投与群と比較したところ約2倍の有意な上昇が確認された。膀胱癌臨床検体における化学療法後のAT1R・VEGF発現変化を免疫組織学的に検討したところ、術前化学療法が施行された膀胱全摘除術標本では術前のTUR切片と比較し有意にAT1R・VEGFの発現が上昇していた。マウス皮下腫瘍モデルを作成しCDDP・ARB併用療法の抗腫瘍効果を検討したところ、臨床応用可能な投与量でのARBによる腫瘍増殖抑制の増強が確認された。

結論

CDDP存在下の膀胱癌では、AT1Rの発現が上昇し、それに伴うAng II刺激への感受性亢進が更なる血管新生の誘導に関与している可能性が示唆された。CDDP・ARB併用の新規レジメンはその有用性が示唆された。

文責 田中 伸之

Benefit of Laparoscopic Radical Nephrectomy in Patients with a High BMI
Hagiwara M, Miyajima M, Matsumoto K, Kikuchi E, Nakagawa K, and Oya M. Jpn J Clin Oncol. 2010 Oct 5. [Epub ahead of print]

目的

当院における腎癌に対する体腔鏡下腎摘除術(LRN)及び開腹腎摘除術(ORN)の出血量及び手術時間に影響を与える因子について統計学的検討を行い、BMI高値の患者における体腔鏡の有用性について検討した。

対象と方法

2002年1月から2007年12月までに当院にて腎癌に対しLRNを施行された93症例と2000年1月から2007年12月までにORNを施行された91症例を対象とし、出血量及び手術時間に影響を与える因子について比較検討を行った。

結果

LRNにおいて、年齢、性別、BMI、腫瘍部位、腫瘍径、病期について単変量解析を行った結果、BMIのみが出血量(p=0.017)及び手術時間(p=0.018)に影響を与える因子であった。多変量解析においても、BMI(p=0.030、odds ratio; 1.174)は手術時間に影響を与える独立した因子であった。BMIはORNにおいてもまた出血量(p<0.001)及び手術時間(p<0.001)に影響を与える因子であった。多変量解析の結果、ORNにおいてはBMI(p=0.030、odds ratio; 1.174)と腫瘍径(p=0.030, odds ratio; 1.320)が手術時間に影響を与える独立した因子であり、ORNにおけるBMIのオッズ比はLRNよりも高い値を示した。

考察

腎癌に対する根治的腎摘除術においては、術式を問わずBMIが手術成績に影響を与える因子であったが、LRNはORNと比較しその影響は少なく、BMI高値の患者に対し、より安全に施行可能であることが示唆された。

文責 萩原 正幸

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.14

The clinical significance of urine cytology after a radical cystectomy for urothelial cancer.
Yoshimine S, Kikuchi E, Matsumoto K, Ide H, Miyajima A, Nakagawa K, Oya M. Int J Urol. 2010 Jun;17(6):527-32.

目的

膀胱全摘除、尿路変向術後の早期上部尿路再発(UTR)診断における尿細胞診の有効性について検討した。

対象と方法

1987年1月から2005年12月までに当院において施行された膀胱全摘除術のうち、組織学診断で尿路上皮癌成分を認めた125例を対象とした。手術時の平均年齢67.6歳、男性89人、女性36人。尿路変向は回腸導管73人、自己導尿型32人、自排尿型19人、尿管皮膚ろう1人であった。観察期間の中央値は64ヶ月であった。なお、class III以上を尿細胞診陽性例と判断した。

結果

UTRは8例に認められた。術後尿細胞診陽性は17例であった。UTR例のうち6例は尿細胞診陽性であり、2例は尿細胞診陰性であった。UTR診断における尿細胞診の感度は75.0%、特異度は90.6%であった。しかしながら、定期画像検査、あるいは自覚症状の出現よりも先行して尿細胞診が陽性であったものは、尿細胞診陽性であった17例のわずか1例(5.9%)のみであった。残りの5例は定期画像検査、あるいは自覚症状の出現に遅れて尿細胞診が陽性になった。尿細胞診陽性であった17例中11例(64.7%)が擬陽性であり、その11例中8例(72.7%)は1回のみ尿細胞診が陽性であった。

考察

尿路変向術後の尿は、変性した腸上皮粘膜が混在しているため、尿路上皮癌細胞との鑑別が難しい。尿細胞診は、UTRの早期診断におけるスクリーニングツールとしてはあまり有効でない可能性が示唆された。

文責 吉峰 俊輔

Contrast-enhanced Ultrasonography of the Prostate with Sonazoid.

Matsumoto K, Nakagawa K, Hashiguchi A, Kono H, Kikuchi E, Nagata H, Miyajima A, Oya M.

Jpn J Clin Oncol. 2010 Jun 24.

目的

前立腺癌の確定診断は、超音波検査下生検によって得られる。しかしその際、通常の超音波検査では必ずしも前立腺癌病巣は同定できていないのが現状である。今回われわれは第2世代超音波造影剤ソナゾイド®を用い、前立腺癌病巣の描出能の検討をProspectiveに行った。

対象と方法

前立腺癌と診断され前立腺全摘術を予定された50人を対象とした。術前に通常の経直腸的超音波検査と造影超音波検査を実施し、前立腺癌病巣の局在を同定した。後日、その結果と前立腺摘出検体の病理組織結果とを比較検討した。

結果

通常の超音波検査では、20人(40%)において少なくとも一か所の前立腺癌病巣を同定できた。一方造影超音波検査では31人(62%)において、癌病巣の造影効果を認めた。さらに両者をCombineすることにより40人(80%)の病巣を同定できた。特に大きな腫瘍やPZ癌、また悪性度の高い癌において特に強い造影効果を認めた。

結論

第2世代超音波造影剤ソナゾイド®を用いることにより、前立腺癌病巣の検出率が向上することが示唆された。本手法は前立腺癌のTarget biopsyに応用できる可能性があると考えられた。

文責 松本 一宏

Clinical impact of bladder biopsies with TUR-BT according to cytology results in patients with bladder cancer: a case control study.
Masashi Matsushima, Eiji Kikuchi, Masanori Hasegawa, Kazuhiro Matsumoto, Akira Miyajima, and Mototsugu Oya
BMC Urol. 2010 Jun 30;10(1):12

要旨

目的

正常粘膜および不整粘膜へのBladder biopsiesは筋層非浸潤性膀胱癌に対する全体的な治療方針の決定に示唆を与えるものと考えられているが、未だその十分な根拠は存在しない。今回我々はTUR-BT施行時に、Bladder biopsiesを正常粘膜に行った群と不整粘膜に行った群に分け、尿細胞診との関係、臨床的意義を検討した。

方法

1998年から2005年までに、当院にて筋層非浸潤性膀胱癌に対しTUR-BTを施行した424例を対象とした。そのうちBladder biopsiesを行ったのは293例で、Bladder biopsiesを正常粘膜に行ったのは234例、不整粘膜に行ったのは59例であった。

結果

TUR-BTで癌が検出されず、Bladder biopsiesのみから癌が検出された症例は存在しなかった。また当院ではup-stage症例、up-grade症例は認めなかった。Bladder Biopsiesの追加により、正常粘膜では8例、不整粘膜では13例において、より悪性の診断がなされた。そのうち正常粘膜においては5例でCISの検出を認めたが、すべて尿細胞診陽性であった。一方、不整粘膜においては9例でCISの検出を認め、うち3例は尿細胞診陰性であった。Bladder biopsiesの結果をふまえて治療方針が変更された症例は存在しなかった。多変量解析の結果、Bladder biopsiesの追加は有意な再発危険因子ではなかった。

結論

術前尿細胞診陰性の症例では、正常粘膜にBladder biopsiesを追加する臨床的意義は少ないと考えられた。一方で、不整粘膜へのBladder biopsiesは尿細胞診陰性であっても必要と考えられ、EAUガイドラインを支持する結果となった。

文責 松島 将史

Regulation of human dendritic cells by a novel specific nuclear factor-kappaB inhibitor, dehydroxymethylepoxyquinomicin.

Shinoda K, Nakagawa K, Kosaka T, Tanaka N, Maeda T, Kono H, Mizuno R, Kikuchi E, Miyajima A, Umezawa K, Oya M.

Hum Immunol. 2010 May 24. [Epub ahead of print]PMID: 20573582 [PubMed - as supplied by publisher]Related citations

目的

成熟樹状細胞は抗原提示細胞の一つであり、その成熟抑制は、免疫抑制療法の一つとして重要である。樹状細胞成熟の過程でNF-κBは重要な転写因子の一つである。今回、我々は新規NF-κB阻害剤dehydroxymethylepoxyquinomicin(DHMEQ)を未熟樹状細胞に前投与し、LPS刺激下に成熟が抑制されるかを検討し、更にallogeneic T cellとの混合培養においてT細胞の分化抑制、制御性T細胞の誘導に対する影響を検討した。

方法

ヒト末梢血単球細胞より樹状細胞を作成した。DHMEQをLPS刺激2時間前に投与した群(dl-DC), LPS刺激24時間群(m-DC), 未熟樹状細胞(im-DC)を作成した。これらを用い、細胞障害試験、核内活性化NF-κB assay (ELISA), フローサイトメトリーによる細胞表面抗原発現、サイトカイン産生能、real time PCR, 混合リンパ球試験, 共培養T細胞における細胞内抗炎症サイトカイン発現の検討(フローサイトメトリー)を行った。

結果

DHMEQはdl-DCに対し、10μg/mlで細胞毒性が見られたため、dl-DCはDHMEQ5μg/ml投与で作成した。m-DCはLPS刺激後24時間持続して、核内へのNF-κB移行が見られた。一方dl-DCにおいてはLPS刺激後24時間持続して核内へのNF-κB移行が抑制された。また、dl-DCのIL-6, TNF-α , IL-12 p40 の転写、発現量は、m-DCに比し有意に抑制された。特にIL-12p70の抑制効果が著明であった。一方で抗炎症性サイトカインであるIL-10の転写、発現はDHMEQ投与により抑制されなかった。dl-DCはCD40, HLA-DRの発現が抑制されていたが、CD80, CD86に関してはm-DCとim-DCの中間の発現量であり、またエンドサイトーシス能もm-DCとim-DCの中間であった。つまりdl-DCはsemi-mature DC(生体において自己寛容の機能を担う)の特徴を持っていた。また dl-DCのTh1細胞(IFN- γ陽性細胞)誘導率は有意に低く、一方で制御性T細胞(IL-10, TGF-β産生細胞)(注)誘導率は有意に高かった。

考察

DHMEQ前投与によって樹状細胞の成熟化が抑制され、その樹状細胞はsemi-mature DCの特徴を有していた。エフェクターT細胞活性化を抑制することが可能であり、IL-10産生T細胞の誘導能が高かった。DHMEQは最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞に対して免疫抑制効果および免疫寛容誘導の可能性を有することが示唆され、今後の新たな免疫抑制療法の一つとして期待される。

(注)ヒトT細胞においてはFoxp3はエフェクター細胞でも上昇することが分かっているので本検討ではFoxp3の発現はあえて見ていない。

文責 篠田 和伸

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.13

Potent Cytotoxic Effect of a Novel Nuclear Factor-kappaB Inhibitor Dehydroxymethylepoxyquinomicin on Human Bladder Cancer Cells Producing Various Cytokines.
Kodaira K, Kikuchi E, Kosugi M, Horiguchi Y, Matsumoto K, Kanai K, Suzuki E, Miyajima A, Nakagawa K, Tachibana M, Umezawa K, Oya M
Department of Urology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan.
Urology. 2010 Feb 13.

目的

特徴的に白血球増加症を引き起こすサイトカイン産生ヒト浸潤性膀胱がん細胞株、KU−19−19細胞に対して、新規に合成されたNF-κB活性抑制剤であるDHMEQを用いて、治療効果についての検討を行った。

方法

In vitroではKU−19−19細胞内にNF-κBを構成しているp65 タンパクが発現しているかをウエスタンブロット法にて確認し、次にNF-κBの活 性はゲルシフトアッセイ(EMSA)で検討した。さらにDHMEQの殺細胞効果とアポ トーシスの誘導を証明し、サイトカイン産生に関しては細胞培養液の上清を用いてエ ライザ法(ELISA)にて測定した。In vivoではヌードマウスに対してK U−19−19細胞による皮下腫瘍モデルを作成し、DHMEQを2mg/kg/日 で3週間連日投与した。効果の検討は腫瘍径の比較、さらには微小血管密度(mic rovessel density)や血管内皮増殖因子(VEGF)、アポトーシ ス関連の免疫染色を用いて評価した。

結果

KU−19−19細胞は恒常的にNF-κBが活性していることを確認した上で、DHMEQがNF-κBの核内移動を抑制することでNF-κBの活性抑制を行っていることを証明した。また細胞活性とサイトカイン産生についてはDHMEQによる抑制が強く認められ、濃度依存性も存在することが判明し、加えてアポトーシスが著明に誘導されていることも認められた。In vivoではDHMEQにより、明らかな腫瘍径の縮小効果がコントロールに比して認められた。さらには免疫組織化学的検討でも微小血管密度や血管内皮増殖因子の抑制と抗アポトーシス効果も証明された。

結論

DHMEQによるNF-κB活性抑制は高悪性度の膀胱癌に対する新たな分子標的療法の一つとして臨床応用の可能性が示唆された。

文責 古平喜一郎

Late Recurrence and Progression in Non-muscle-invasive Bladder Cancers After 5-year Tumor-free Periods.
Kazuhiro Matsumoto, Eiji Kikuchi, Yutaka Horiguchi, Nobuyuki Tanaka, Akira Miyajima, Ken Nakagawa, Jun Nakashima, Mototsugu Oya
Urology. 2010 Jan 26.

要旨

目的

晩期に再発や進展する筋層非浸潤性膀胱癌は稀ではないが、特に5年間無再発以降のFollow-upの指針はGuideline上もはっきりと示されていない。今回われわれは、5年間再発の無かった筋層非浸潤性膀胱癌症例をReviewし、その後の再発および進展につき検討を行った。

対象と方法

当院にて1985年から2002年までにTUR-BTが施行され、その内5年間再発を認めなかった262人の患者を本研究の対象とした。平均観察期間は10.0年であった。対象症例をAUAのguidelineをもとに、High risk、Intermediate risk、Low riskgroupの3群に分類し、5年間無再発以降の再発および進展につき検討を行った。

結果

5年、10年非再発率は81.6%、76.0%であったが、risk group間に再発率の有意差を認めなかった。しかし、Low risk groupには10年間無再発以降に再発を来たした症例は無かった。多変量解析の結果、唯一の再発危険因子はTUR-BT後のMMC膀胱内注入の既往であった(p=0.01, HR 4.00)。5年間無再発以降に5症例に進展を認め、3人が癌死していたが、進展した5例はすべてHigh risk groupの症例であった。

考察

5年間再発を認めなかった筋層非浸潤性膀胱癌においては、すべてのrisk groupで同様に晩期再発を認めるため、たとえLow risk groupにおいても少なくとも10年目までFollow-upを継続する必要があると考えられた。またMMC膀胱内注入症例に5年目以降の再発を多く認める傾向があり、Follow-upの際注意が必要であると考えられた。一方、5年目以降に進展する症例をHigh risk groupには認めたため、定期的なCT等の画像検査が必要であると考えられた。

文責 松本一宏

Adrenocortical Zonation in Humans under Normal and Pathological Conditions.
「ヒト正常・病態における副腎皮質の組織構築と機能分化」

Koshiro Nishimoto, Ken Nakagawa, Dan Li, Takeo Kosaka, Mototsugu Oya, Shuji Mikami, Hirotaka Shibata, Hiroshi Itoh, Fumiko Mitani, Takeshi Yamazaki, Tadashi Ogishima, Makoto Suematsu, and Kuniaki Mukai. J Clin Endocrinol Metab. in press.

背景

アルドステロン(Aldo)合成酵素(CYP11B2)と11betaOH化酵素(CYP11B1)はそれぞれAldoとコルチゾールの最終合成に関わる。それゆえに、これらの2酵素がAldo産生細胞とコルチゾール産生細胞の局在を規定する。しかし、CYP11B2と-B1はアミノ酸配列が93%同一であり、免疫組織化学的に識別することは従来不可能であった。そのため、正常副腎皮質及び副腎皮質疾患におけるこれらの2酵素の発現・局在はほとんど不明のままであった。

目的

CYP11B2および-B1を互いに区別する抗体を用い、正常組織及び病態におけるCYP11B2と-B1の局在を明らかにすること。

結果

ヒト正常副腎皮質の球状層、束状層にそれぞれCYP11B2、-B1が検出された。球状層を含む外側領域には、CYP11B2と-B1のどちらも検出されない未分化副腎皮質細胞が認められた。これらの結果はヒト副腎皮質組織が従来から知られた層状機能分化(conventional zonation)を持つこと示す。加えて、我々は、ヒト正常副腎皮質には被膜下にCYP11B2を高発現する細胞クラスター(Aldosterone-producing cell cluster, APCCと命名)が高頻度に存在することを発見した。APCCが存在する部位は、APCCとそれ以外のCYP11B1発現領域からなる斑入り状の組織構造(variegated zonation)を構成していた。原発性Aldo症患者から摘出されたAldo産生腺腫(Aldo-producing adenoma, APA)にはCYP11B2, -B1両方の発現が認められた。一方、クッシング症候群から摘出されたコルチゾール産生腺腫(Cortisol-producing adenoma, CPA)にはCYP11B1の高発現が認められ、非腫瘍副腎は萎縮していた。興味深いことに、APAとCPAの非腫瘍副腎には高頻度にAPCCが認められ、CYP11B2を高発現していた。この結果はAldoまたはコルチゾールの過剰産生がレニン-アンギオテンシン系を抑制するにもかかわらず、APCCはCYP11B2を高発現することを示す。

結論

本研究の結果から、我々は「ヒト副腎皮質には従来の層状機能分化に加え、斑状機能分化が存在すること」、「Aldo合成は球状層において誘導的、APCCにおいて構成的であること」を提唱する。さらに我々が新たに確立したCYP11B2と-B1の免疫組織化学法は、副腎腺腫の病理学的確定診断法として有用であると考える。

文責 西本紘嗣郎

How Do Young Residents Practice Laparoscopic Surgical Skills?
Akira Miyajima, , Masanori Hasegawa, Toshikazu Takeda, Kouetsu Tamura, Eiji Kikuchi, Ken Nakagawa and Mototsugu Oya
Urology, 2010 March 17, E-pub ahead of print

目的

鏡視下手術は普及定着しつつあるものの,確固とした教育システムが確立されていないのが現状である。本検討では,若手レジデントを対象としドライボックスを用いて鏡視下手技において一定の学習方法を試みた。

方法

当科に在籍する6年医と3年医の計11人を対象に,ドライボックスにおける作業(切開,縫合)を持続的に16週間に渡りテストした。

結果

テストされた全員に明らかな学習曲線を認めた。当初は6年医の方が3年医より良好な成績を記録する傾向にあったが、練習ならびにテストを繰り返すにつれ、両群に有意差は認めなくなった。最終テスト結果に影響を与える因子はそれまでの臨床経験ではなく、練習時間(週100分以上)であった。最終テストに向けて施行された平均練習時間は週79.1分であった。

考察

鏡視下手術手技は,より専門的技術を習得しようという高いモチベーションと自発的な十分な練習によって磨かれることが明らかとなった。しかし,より有効な学習方法と教育方法を見いだすという観点からすれば,検討の余地は十分にあり,我々はまだそのタスクの第一歩を踏み出したに過ぎない。

文責 宮嶋哲

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.12

Extraperitoneal Approach Induces Postoperative Inguinal Hernia Compared with Transperitoneal Approach after Laparoscopic Radical Prostatectomy.
Yoshimine S, Miyajima A, Nakagawa K, Ide H, Kikuchi E, Oya M.
Jpn J Clin Oncol. 2009 Dec 22.

目的

体腔鏡下前立腺全摘除術後に生じた鼡径ヘルニアの発症に関し、影響する因子を検討した。

方法

2000年11月から2007年11月までの期間に当院において体腔鏡下前立腺全摘除術が施行された493例を対象とし、年齢、BMI、PSA、前立腺体積、手術既往歴等の術前因子と、術式(経腹的アプローチ、腹膜外アプローチ)、手術時間が術後鼡径ヘルニア発症に影響するか検討した。

結果

術後鼡径ヘルニアを発症したものは41例(8.3%、右27例、左10例、両側4例)であった。経腹的アプローチでは81例のうち4例(4.9%)、腹膜外アプローチでは412例のうち37例(9.0%)がヘルニアを発症した。多変量解析の結果、術後鼡径ヘルニアの発症には腹膜外アプローチが有意なリスクファクターであった。

考察

体腔鏡下前立腺全摘除術後の鼡径ヘルニアの発症には術式との関連性が示唆された。

文責 吉峰俊輔

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慶應大学医学部泌尿器科教室からの論文紹介 NO.11

Kunimitsu Kanai, Jun Nakashima, Akitomo Sugawara, Naoyuki Shigematsu, Hirohiko Nagata, Eiji Kikuchi, Akira Miyajima, Ken Nakagawa, Atsushi Kubo, and Mototsugu Oya : Prediction of PSA Bounce after Permanent Prostate Brachytherapy for Localized Prostate Cancer. Int J Clin Oncol. 14 (6), 502-6, 2009.

要約

目的

限局性前立腺癌に対するI-125を用いた永久挿入密封小線源治療後のPSA bounce現象に関する検討を行った。

方法

術後3ヶ月毎にPSA値を測定し、観察期間が12ヶ月以上である86例を対象とした。いずれも小線源単独治療であり、ホルモン療法施行例や外照射併用例は含まれていない。PSA bounceの定義として、PSA値が術後に下降した後、前値から0.4 ng/mL以上の上昇を認め、その後に上昇前値またはそれ以下のnadirに達した現象とした。PSA bounce出現の因子として年齢、治療前PSA、Gleason score、前立腺体積、臨床病期、D90、V100、V150、V200について、Log-rank testとCox比例ハザードモデルで検定した。

結果

治療時の平均年齢は68.3歳(53-80歳)、治療前の平均PSA値は6.77 ng/mL(4.01-15.90 ng/mL)、治療日からの観察期間の中央値は32ヶ月(12-52ヶ月)であった。PSA bounce出現までの期間の中央値は15ヶ月(9-35ヶ月)であり、Kaplan-Meier法による1年後、2年後のPSA bounce出現率はそれぞれ6%、26%であった。単変量解析ではPSA bounce出現との関連が年齢、D90、V100、V150に認められ、多変量解析では年齢 ≤67(p=0.0016)、D90 >180Gy(p=0.0110)がPSA bounce出現の独立した予測因子であった。年齢 >67かつD90 ≤180Gyである症例では2年後のPSA bounce出現率は4%であるのに対して、年齢 ≤67かつD90 >180Gyである症例では64%と高率であった。

結論

小線源治療後にPSA bounce現象を認めることは稀ではなく、PSA bounce現象と年齢、照射線量の間に有意な関連性のあることが示唆された。

文責 金井邦光

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Hiroki Ide, Jun Nakashima, Hidaka Kono, Hirohiko Nagata, Eiji Kikuchi, Akira Miyajima, Ken Nakagawa and Mototsugu Oya: Prognoastic Stratification in Patients who Received Hormonal Therapy for Prostate Specific Antigen Recurrence after Radical Prostatectomy. Jpn J Clin Oncol, 2009.

要旨

目的

前立腺全摘後PSA再発を認め、ホルモン療法を施行した患者の予後因子を解析する事を目的とした。

対象と方法

当院において前立腺癌に対し、前立腺全摘後PSA再発を認め、ホルモン療法を施行した患者55例を対象とし、非再燃生存期間における予後因子を解析した。

結果

多変量解析において、primary Gleason grade 4以上 および PSA 倍加時間6ヶ月未満 が独立した予後因子であった。

さらに低リスク群(primary Gleason grade 3以下 および PSA 倍加時間6ヶ月以上)、中間リスク群 (primary Gleason grade 4以上 または PSA 倍加時間6ヶ月未満)、および高リスク群 (primary Gleason grade 4以上 および PSA 倍加時間6ヶ月未満)に分けて解析を行った。その結果、中間リスク群および高リスク群において、ホルモン療法開始時PSA 2未満の患者が、2以上の患者より、非再燃率が有意に高かった。

結論

Primary Gleason grade 4以上 および PSA 倍加時間6ヶ月未満が術後PSA再発に対し、ホルモン療法を施行した患者の非再燃生存期間における独立した予後因子であった。

また、中間リスク群および高リスク群では、術後PSA再発を認めた場合、早期にホルモン療法を施行するべきであることが、示唆された。

文責 井手広樹

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